図4

ダイナミックバランス入門 (for Merlin)

ステディ初心者でMerlinオーナーになりました。
最近始めたことの中で今一番盛り上がっていて、実技特訓と情報集めに夢中です。
それでこの投稿ページでは、私の苦手な英文で書かれた物理や数学を含む参考資料やサイト情報を、覚え書きとしてまとめてみました。
主にA Dynamic Balance Primerと言うダイナミックバランス入門を自分なりに理解しやすくしたつもりです。
一部私の考えも含まれていますので、誤解や間違いがあるかもしれません。
しかし徐々に訂正や書き加えて行く前提の見切り発車で公開したいと思います。

ここでは”ステディカム”はティッフェンの商品カテゴリーをさし、岡持ちスタビライザー全般は”ステディ”として使い分けたいと思います。

ステディの操作性に関わる設定は3つ

  1. カメラを静止状態で水平にたもつ静的バランスの設定(Static balance)
  2. 水平移動の終始に働く慣性対して安定させるドロップタイムの設定(Top to bottom balance)
  3. 静的バランス状態でさらに横回転時にも水平にたもつダイナミックバランスの設定(Dynamic balance)

1.静的バランスの設定

図1
図1 ←カメラ前  カメラ後→

静的バランスがとれている状態が図1の数式になります。
W(g)が重さ、R(cm)がセンターポールからの距離です。

例1:前方に100gのモニターをセンターポールから20cn離れたところに設置した時に200gのバッテリーを後ろにセンターポールから10cm離れたところに設置

1.2.の設定をすることをダイナミックバランスの設定と書かれたサイトを良く見ます。
おそらくですがHD1000やHD4000のグライドカムような逆T型タイプは、カメラの重心はセンターポールの中心で静的バランスがとれていれば、ダイナミックバランスもとれている機種が多いためだと思います。

  1. グライドカムはウエイトを前後等距離に同重量乗せればカメラを乗せて静的バランスがとれた時にはカメラの重心はセンターポールの中心に自然と来ます。
  2. ステディカムのパイロットなどは比重の違うモニターとバッテリーでバランスをとる場合はカメラの重心を予め別途に出してセンターポールの中心に置きモニターとバッテリーを前後に動かして静的バランスをとります。

2.ドロップタイムの設定

ドロップタイムの設定はステディカムらしさを出すための設定です。揺れを押さえて動き始め揺れを押さえて止まる移動撮影用特機に必要不可欠な設定です。
大きい特機や重量のあるものほど適切なドロップタイムは長くなります。
同じ重量の特機ならドロップタイムが長いほど、動作の終始とチルトなどが安定しますが、停止状態での画面のフィックスが難しくなり、また風の影響も出やすくなります。
重要かつ必要不可欠な設定ではありますが使用機種や好みでも変わるところでもあり経験値の少ない私には細かいことはまだ書けません。
ただ今の私が思うMerlinの扱いやすいドロップタイムは2秒辺りです。
そして後ほど出てくる物理の数式からも、ドロップタイムはダイナミックバランスに影響を与えません。

カメラを回転させないで左右に移動する時に起きるロールはドロップタイムが短いためです。

3.ダイナミックバランスの設定

そしてここから本題のダイナミックバランスです。静的バランスもドロップタイムも結構端折った感じです。この辺りを細部まで書こうとすると取説になりかねないですし、私がメーカー別の説明書ほどうまく説明出来るとは、とても思えません。それに解りやすい動画も検索すれば機種別で見つかりそうです。しかしダイナミックバランスについてはMerlinの説明書には書いていませんでした。(少なくとも日本語版には)いろんなサイトで必ず出てくるワードなんですが、回してロールしたらダイナミックバランスが崩れていますと….、でどうすれば?結局日本語での対処方法は見つけられませんでした。?だけが残り私は、ジンバルの真上にカメラの重心がくれば良く、ただ私のカメラとレンズの組み合わせでは重心はジンバルの上に持って来れないだけ、そしてカメラを外してもMerlinは水平をたもっていれば良いと思った訳です。もちろんすべて間違いです。やはりこの辺りの物理的な理解は、咀嚼程度必要だと思いました。

  • 3-1ポジティブフォース=ネガティブフォース

図2 ←カメラ前  カメラ後→

静的バランスがとれた状態で横回転時に働くポジティブフォース(カメラ前を上げようとする力=カメラ後ろを下げようとする力以後Pとする)とネガティブフォー(カメラ前を下げようとする力以後Nとする)を同じにすることで安定させるとダイナミックバランスがとれたことになります。

そしてそのPNは遠心力Fと反応点とのレベル差Lで数式ができます。図2は上の●を反応点とした時の数式です。もし反応点が下2つの●を結んだ線上まで持って来た場合の力は遠心力F意外ないのでダイナミックバランスに影響するPNはありません。P=N=0です。逆にLの値が大きとPNも大きくなります。

図2の数式では静的バランスがとれているときダイナミックバランスがとれた状態にするにはモニターやバッテリーなどのウエイトWの重心にあたる下2つの●は反応点から同じ距離Lでなければならなくなります。

これにカメラが乗っている状態の数式が加わりますが、仮に反応点にカメラの重心があればカメラのRLの値は0ですから、静的バランがとれていて遠心力の影響も受けません。そのまま反応点だけ下に移動してもカメラのRの値が0である以上ダイナミックバランスは崩れません。これが静的バランスのところで書きました逆T型タイプは静的バランスをとるとダイナミックバランスがとれている理由です。

図3
図3a ←カメラ前  カメラ後→

昔のモニターは小さかったため少しでも見やすいようにモニターの高さだけ上げたのがステディカムのモデル2の始まりのようです。するとパーンの時に高さが違うモニターとバッテリーの重心を結んだ線の垂直線を軸に回りだしたと参考資料に書いてありました。図3aの数式がその状態です。

図3b
図3b ←カメラ前  カメラ後→

 

 

 

しかしカメラの重心をずらすことで、モニターがスレッドの中間にあるような2つのLの値が違うものでも、ダイナミックバランスがとれます。

それが図3bで静的バランスの数式とダイナミックバランスの数式の、条件を合わせることです。結果、センターポールからカメラの重心が後ろに下げたところであることと、センターポール中央にカメラの重心がある時よりバッテリーは、センターポールに近づくことが分かります。A Dynamic Balance PrimerのP7~9

例2:実際あり得ない位置ですが黒丸●を反応点とした場合、下記の条件でダイナミックバランスがとれるセンターポールからバッテリーの距離?とカメラの後に下がる値??を求めます。
モニター W=6 L=20 R=10
バッテリー W=5 L=30 R=?
カメラ W=25 L=0 R=??
静的バランスがとれているのでダイナミックバランス数式から相殺した数式に数字を当てはめると
(6*10)*20-(5*?)*30-(25*??)*0=0
1200-150*?-0=0
バッテリーのR=8 となります。
そしてさらに静的バランスの数式に数字を当てはめると
-6*10+5*8+25*??=0
-60+40+25*??=0
25*??=20 カメラのR=0.8 と導かれます。

そして反応点(ジンバルの位置)高さを青丸例えば6下げた場合をダイナミックバランスの数式に当てはめて見ます。

モニター W=6 L=20-6 R=10
バッテリー W=5 L=30-6 R=8
カメラ W=25 L=-6 R=0.8
(6*10)*(20-6)-(5*8)*(30-6)-(25*0.8)*(-6)=0
840-960+120=0
となりダイナミックがとれていることが解ります。
この例2で答えが求めやい黒丸●で計算してその後のジンバルの位置の変更は、その答えに影響しないことが解ります。A Dynamic Balance PrimerP9

つまりステディカムのモデル2のようなタイプでも1度ダイナミックバランスがとれれば、ジンバルの位置だけが上下してもドロップタイムが変わるだけです。カメラとウエイト代わりのモニターとバッテリーの3つの重心の位置関係(カメラからモニターまで:カメラからバッテリ=1:2などが)が変わらない限りダイナミックバランスは崩れないのです。これがステディカムでドロップタイムの微調整をジンバルの位置で調整する理由だと思います。

 一方センターポールの長さを変えてドロップタイムを、変更するとその3つの重心の位置関係が変わるため(1延びると2:3に変化)ダイナミックバランスは、崩れてしまいます。ではジンバルが動かないグライドカムは不利なのかというと、逆T型は3つの重心の位置関係が常に(1:1)なので、センターポールの伸び縮みだけで、問題ないわけです。

補足: Ωは角速度のことで回転速度とは違いますが回転する早さを表すことには違い有りません。計算式で相殺される単位なので気にすることはないと思います。
実際の遠心力はF=MR(Ωの2乗)です。Mは質量のことで正確にはW(重量)とは違いますがここではMをW入れ替えて計算しています。

  • 3-2実際のセッティング

ややこしい数式が続きましたが設定の時に予測をたてるために、何となく理解していれば良いくらいだ思います。または解らなかったとしても段取り通りすれば実際のセッティングは簡単です。
実際のセッティングには数式は出てきませんから計算もありません。

セッティング方法(測定不要)

  1. 始めにカメラCの重心をセンタポールの中心に置きます。モニターMを見やすくセッティングしてバッテリーBを静的バランスがとれるようにセンターポールからの位置を調整する。(図3と同じなのでこの段階では回転させるとN>Pとなりカメラ前に傾きます。しかしこの設定から始めることはカメラは後ろに、そしてバッテリーは内側へ動かすとダイナミックバランスがとれると判っています。)
  2. あとはバッテリーBを1/4inchか1/2inch(約6mmか12mmですがcm単位なら1/2cmか1cmでOK)刻みにRの位置を内側に動かします。
  3. 2.での傾きをカメラCを後に動かして静的バランスをとりなおします。
  4. 水平に回転するかチェックします。水平に回転するまで2.から折り返します。
スタンダードなセッティング方法イメージ図

より素早いセッティング方法(要一部測定)

  1. カメラCの重心をセンタポールの中心に置き先ほどと同じようにモニターとバッテリーでバランスをとります。センターポールからバッテリーの重心の距離を測りそれを100%とします。モニターがどの位の高さか割合を測ります。
  2. そのモニターの高さ割合でバッテリーを移動する。
  3. 2.での傾きをカメラの重心移動で静的バランスをとりなおします。それでダイナミックバランスはとれるか非常に近いセッティングになります。The Steadicam Operator’s HandbookP35
素早いセッティング方法イメージ図

結果ほとんどの場合ステディカム(多分大型タイプ場合だけだと思います。)ではモニターは25%から30%バッテリーより上に設置された場合、カメラが0.75inch(約2cm)後ろに下がった辺りにくるそうです。しかし参考文献が書かれた時代のモニターは、液晶ではなくかなり重いものだったと推測できます。またカメラも重そうです。やはり始めはこの手順をふんだ方がよいでしょう。

 

  • 3-3Merlinのダイナミックバランス

では私が所有するMerlinのダイナミックバランスの設定方法は、どうすればよいのでしょうか?
今のところ、搭載するカメラの重量gと重心の高さcmを入力すると、何パターンかの設定値とダイナミックバランスがOKかを割出てくれるメーカーサイト以外の、参考資料などはどこにもありませんでした。
それでは素早くレンズ交換やマイク追加など、現場で前項目の3-2″実際のセッティング”の様には行きません。
海外フォーラムでもそれは忘れて、ドロップタイムと静的バランスを重視と書かれていたりします。

図4
図4 ←カメラ前  カメラ後→

そこでここからは私の理論上のやり方です。(只の屁理屈かも知れませんが、そのために調べて理解しようとした訳で..)

ウエイトの重心が図4の様にあるMerlinは、スレッドタイプのステディカムのモデル2のタイプとウエイトバランスの取り方が同じで前後のL値が違います。その差はかなり大きく図5の4に似ているのでカメラの重心は、ジンバル上からかなり後ろにズラしたところで、静的バランスをとらなけらばダイナミックバランス(スピン時の安定)がとれないと予想されます。(私のCanon 5D2&50mm組合わせではさほど後ではなかったです)またMerlinの設定を先ほどの3-2″実際のセッティング”の様に、カメラを乗せない状態又はジンバル真上カメラの重心を置いて静的バランスをとるところから始めるのは、極端な設定から始めることになるか、あるいは不可能です。キャリパーはすごく狭くしても前に傾きますし、そうするとウエイトも最後の詰める設定よりかなり重くなります。カメラの重心がジンバルより後ろにくることを理解し、ある程度カメラもセッティングしてからダイナミックバランスを修正する方がスムーズです。それこそなれるまでは、メーカーサイトで近い値を出すところから始めるのも良いかもしれません。

参考URL : メイカーサイト(追記2012/1/15)
Merlin設定値

単位グラム&ミリの場合 Metric Magic Formula
単位米ポンド&インチの場合 English Magic Formula

カメラの重さとカメラの重心の高さを入力して使います。
使用方法を紹介している日本語サイトもちらほらあるようですので今回は省きますが、近いうちに私なりの使い方を取り上げてみようかと思います。

  • 3-4Merlin実際のセッティング

ドロップタイムの設定まで終わった段階でガイドリングに余裕がある状態(閉切ったところから4回転のデフォルトの辺り)でのウエイトとキャリパーでセッティングされているのが理想です。

  1. Merlinにはカメラプレートだけの前後にスライドさせたり、調整ノブでジンバルのだけ前後に調整機する機能があります。静的バランスとれたMerlinを、回転してみて前のめり(ネガティブフォースN)ならカメラプレートを1メモリ後ろ1Nにして、後ろに傾いたMerlinの静的バランスをジンバルを後ろ1Nに移動させることで調整します。それを平行に回転するまで繰り返します。これを折り返すと徐々にジンバルからカメラは後ろにウエイトを含む本体は前に移動します。(ポジティブフォースPならその逆にカメラプレート前1Pにしていく)
  2. Merlinのキャリパーはドロップタイムの設定のみではなく下のウエイト位置をジンバルの中心直下に近づける2N離す2Pの働きも有ります。つまり図3のバッテリーBR値の調整になります。静的バランスとれたMerlinを、回転してみて前のめり(ネガティブフォースN)ならキャリパーが開く2N時計回りに1/10又は2/10回転(ノブ側面に10等分溝が入っています)ノブを回し、前に傾いたMerlinの静的バランスをジンバルを前2Nに移動させることで調整します。それを平行に回転するまで繰り返します。これを折り返すと徐々にジンバルからカメラを含む本体は後ろに下のウエイトは前に移動します。(ポジティブフォースPならその逆にキャリパーを閉めていく)これを多様するとドロップタイムが短く(長く)なりますのでガイドリングでドロップタイム再調整していきます。そこで始めのセッティングではガイドリングに余裕が必要な訳です。
  3. 1.2を交互に又は1.1.や2.2.や1.1.2.1.1.などの順列で詰めていきます。また同じネガティブフォースNに対の対処方法が1.と2.ではジンバルの移動方向が逆です。うまく1.と2.を組み合わせて、微調整や一時的な大きい上下チルトで静的バランスを崩す時のためにも、ジンバル位置に前後移動の余裕を残すことは撮影に有利だと思います。但し微調整で済みそうな時は、ドロップタイムが変わらない1.を優先的に使います。
  4. 構造上手又は台座が邪魔でためグルグル回転できないMerlinで平行回転チェックする方法として可動範囲を出来るだけ使い実際の使用するスピード(始めは20~40rpm、1回転約1秒半から3秒)から指でパンストップをかけた時のカメラの挙動でチェックします。回転時に判断しにくい微妙な下向きでも止めた瞬間大きく上に揺れます。これでネガティブフォースNと判断します。この揺れが制御できる範囲ならセッティング完了です。ダイナミックバランスはパン中の向き以上にパン終了直後の揺れを抑えることが第一の目的だと思います。

つまりMerlinのダイナミックバランスは、静的バランスを維持しながらジンバル中心かカメラの重心を徐々に離して(又は近づけ)回転テストすれば良いと考えた訳です。そしてカメラの重心は確実にジンバル中心より後で下のウエイトの重心がジンバル中心の真下にくるまでにはダイナミックバランスがとれと考えられます。

図5
図5 ダイナミックバランス状態のイメージ 黒丸 ●は重量が同じものの重心とする

たぶんこれで合っていると思うのですが…

参考資料

A Dynamic Balance Primer

「The Steadicam Operator’s HandbookP25からP36まで

 

ここでまとめることで、私の頭の中も整理出来たような気がします。後は腕が伴うよう練習あるのみ。

皆さんご指導を喜んで受けますので有益な情報よろしくお願いします。

最後に私はマーリン初心者ですから鵜呑みは禁物です。w

最終加筆日2012/1/15